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七月ばかりに、風のいたう吹き、雨などのさわがしき日、大かたいと涼しければ、扇もうち忘れたるに、汗の香少しかかへたる衣の薄き引きかづきて、晝寢したるこそをかしけれ。
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にげなきもの
髮あしき人のしろき綾の衣著たる。しじかみたる髮に葵つけたる。あしき手を赤き紙に書きたる。下衆の家に雪の降りたる。また月のさし入りたるもいとくちをし。月のいとあかきに、やかたなき車にあひたる。又さる車にあめうしかけたる。老いたるものの腹たかくて喘ぎありく。また若き男もちたる、いと見ぐるしきに、他人の許に行くとて妬みたる。老いたる男の寢惑ひたる。又さやうに髯がちなる男の椎つみたる。齒もなき女の梅くひて酸がりたる。下衆の紅の袴著たる、このごろはそれのみこそあンめれ。靱負佐の夜行狩衣すがたも、いといやしげなり。また人に恐ぢらるるうへの衣はたおどろおどろしく、たちさまよふも、人見つけばあなづらはし。「嫌疑の者やある」と戲にもとがむ。六位藏人、うへの判官とうちいひて、世になくきら〳〵しきものに覺え、里人下衆などは、この世の人とだに思ひたらず、目をだに見あはせで恐ぢわななく人の、内裏わたりの廊などに忍びて入りふしたるこそいとつきなけれ。そらだきものしたる几帳にうちかけたる袴の、おもたげに賤しうきら〳〵しからんもと、推し量らるるなどよ。さかしらにうへの衣わきあけにて、鼠の尾のやうにて、わがねかけたらん程ぞ、似氣なき夜行の人人なる。この司ほどは、念じてとどめてよかし。五位の藏人も。
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廊に人とあまたゐて、ありく者ども見、やすからず呼び寄せて、ものなどいふに、清げなる男、小舎人童などの、よき裏袋に衣どもつつみて、指貫の腰などうち見えたる。袋に入りたる弓、矢、楯、鉾、劍などもてありくを「誰がぞ」と問ふに、ついゐて某殿のといひて行くはいとよし。氣色ばみやさしがりて、「知らず」ともいひ、聞きも入れでいぬる者は、いみじうぞにくきかし。
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月夜に空車ありきたる。清げなる男のにくげなる妻もちたる。髯黒ににくげなる人の年老いたるが、物がたりする人の兒もてあそびたる。
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主殿司こそなほをかしきものはあれ。下女のきははさばかり羨しきものはなし。よき人にせさせまほしきわざなり。若くて容貌よく、容體など常によくてあらんは、ましてよからんかし。年老いて物の例など知りて、おもなきさましたるもいとつき〴〵しうめやすし。主殿司の顏、愛敬づきたらんをもたりて、裝束時にしたがひて、唐衣など今めかしうて、ありかせばやとこそ覺ゆれ。



