枕草子: 126-130

126
わびしげに見ゆるもの
六七月の午未の時ばかりに、穢げなる車にえせ牛かけて、ゆるがし行くもの。雨ふらぬ日はりむしろしたる車。降る日はりむしろせぬも。年老いたる乞兒。いと寒きをりも、暑きにも、下種女のなりあしきが子を負ひたる。ちひさき板屋の黒うきたなげなるが、雨にぬれたる。雨のいたく降る日、ちひさき馬に乘りて前駈したる人の、かうぶりもひしげ、袍も下襲もひとつになりたる、いかにわびしからんと見えたり。夏はされどよし。
127
あつげなるもの
隨身の長の狩衣。衲の袈裟。出居の少將。いみじく肥えたる人の髮おほかる。琴の袋。六七月の修法の阿闍梨。日中の時など行ふ。又おなじころの銅の鍛冶。
128
はづかしきもの
男の心のうち。いさとき夜居の僧。密盗人のさるべき隈に隱れ居て、いかに見るらんを、誰かはしらん、暗きまざれに、懷に物引き入るる人もあらんかし。それは同じ心にをかしとや思ふらん。夜居の僧は、いとはづかしきものなり。若き人の集りては、人のうへをいひ笑ひ、謗り憎みもするを、つくと聞き集むる心のうちもはづかし。「あなうたて、かしがまし」など、御前近き人々の物けしきばみいふを聞き入れず、いひてのはては、うち解けてねぬる後もはづかし。男はうたて思ふさまならず、もどかしう心づきなき事ありと見れど、さし向ひたる人をすかし、たのむるこそ恥しけれ。まして情あり、このましき人に知られたるなどは、愚なりと思ふべくももてなさずかし。心のうちにのみもあらず。又皆これが事はかれに語り、かれが事はこれに言ひきかすべかンめるを、我が事をば知らで、かく語るをば、こよなきなンめりと思ひやすらんと思ふこそ恥しけれ。いであはれ、又あはじと思ふ人に逢へば、心もなきものなンめりと見えて、恥しくもあらぬものぞかし。いみじくあはれに、心苦しげに見すてがたき事などを、いささか何事とも思はぬも、いかなる心ぞとこそあさましけれ。さすがに人のうへをばもどき、物をいとよくいふよ。ことにたのもしき人もなき宮仕の人などをかたらひて、ただにもあらずなりたる有樣などをも、知らでやみぬるよ。
129
むとくなるもの
潮干の潟なる大なる船。髮みじかき人の、かづらとりおろして髮けづるほど。大なる木の風に吹きたふされて、根をささげてよこたはれふせる。相撲のまけているうしろ手。えせものの從者かんがふる。翁の髻はなちたる。人の妻なンどの、すずろなる物怨じして隱れたるを、かならず尋ねさわがんものをと思ひたるに、さしも思ひたらず、ねたげにもてなしたるに、さてもえ旅だち居たらねば、心と出できたる。狛犬しく舞ふものの、おもしろがりはやり出でて踊る足音。
130
修法は、佛眼眞言など讀みたてまつりたる、なまめかしうたふとし。