枕草子: 241-245

241
小一條院をば、今内裏とぞいふ。おはします殿は清涼殿にて、その北なる殿におはします。西東はわたどのにて渡らせ給ふ。常に參うのぼらせ給ふ。おまへはつぼなれば、前栽などうゑ、笆ゆひていとをかし。二月十日の日の、うら
とのどかに照りたるに、わたどのの西の廂にて、うへの御笛ふかせ給ふ。高遠の大貳、御笛の師にて物し給ふを、異笛ふたつして、高砂ををりかへし吹かせ給へば、猶いみじうめでたしと言ふもよのつねなり。御笛の師にて、そのことどもなど申し給ふ、いとめでたし。御簾のもとに集り出でて見奉るをりなどは、わが身に芹つみしなど覺ゆることこそなけれ。すけただは木工允にて藏人にはなりにたる。いみじう荒々しうあれば、殿上人女房は、あらわにとぞつけたるを、歌につくりて、「さうなしのぬし、尾張人の種にぞありける」とうたふは、尾張の兼時が女の腹なりけり。これを笛に吹かせ給ふを、添ひ侍ひて、「なほたかう吹かせおはしませ、え聞きさふらはじ」と申せば、「いかでか、さりとも聞き知りなん」とて密にのみ吹かせ給ふを、あなたより渡らせおはしまして、「このものなかりけり、只今こそふかめ」と仰せられて吹かせたまふ。いみじうをかし。

242
身をかへたらん人などはかくやあらんと見ゆるもの
ただの女房にて侍る人の、御乳母になりたる。唐衣も著ず、裳をだに用意なく、白衣にて御前に添ひ臥して、御帳のうちを居所にして、女房どもを呼びつかひ、局に物いひやり、文とりつがせなどしてあるさまよ。言ひ盡すべくだにあらず。雜色の藏人になりたるめでたし。去年の霜月の臨時の祭に御琴もたりし人とも見えず。君達に連れてありくは、いづくなりし人ぞとこそおぼゆれ。外よりなりたるなどは、おなじ事なれどさしもおぼえず。
243
雪たかう降りて、今もなほふるに、五位も四位も、色うるはしう若やかなるが、袍の色いと清らにて、革の帶のかたつきたるを、宿直すがたにひきはこえて、紫の指貫も、雪に映えて、濃さ勝りたるを著て、袙の紅ならずば、おどろしき山吹を出して、傘をさしたるに、風のいたく吹きて、横ざまに雪を吹きかくれば、少し傾きて歩みくる、深沓半靴などのきはまで、雪のいと白くかかりたるこそをかしけれ。
244
廊の遣戸 いと疾う押しあけたれば、御湯殿の馬道よりおりてくる殿上人の、萎えたる直衣指貫の、いたくほころびたれば、いろの衣どもの、こぼれ出でたるを、押し入れなどして、北の陣のかたざまに歩み行くに、あきたる遣戸の前を過ぐとて、纓をひきこして、顏にふたぎて過ぎぬるもをかし。
245
ただすぎにすぐるもの
帆をあげたる舟。人のよはひ。春夏秋冬。