311
宿直すがたなども、品こそ男も女もあらまほしきことなンめれ。家の君にてあるにも、誰かはよしあしを定むる。それだに物見知りたる使人ゆきて、おのづからいふべかめり。ましてまじらひする人はいとこよなし。猫の土におりたるやうにて。
313
工匠の物くふこそいと怪しけれ。新殿を建てて、東の對だちたる屋を作るとて、工匠ども居竝みて物くふを、東面に出で居て見れば、まづ持てくるや遲きと、汁物取りて皆飮みて、土器はついすゑつつ、次にあはせを皆くひつれば、おものは不用なンめりと見るほどに、やがてこそ失せにしか。二三人居たりし者、皆させしかば、工匠のさるなめりと思ふなり。あなもたいなの事どもや。
314
物語をもせよ、昔物語もせよ、さかしらに答うちして、こと人どものいひまぎらはす人いと憎し。
315
ある所に、中の君とかやいひける人の許に、君達にはあらねども、その心いたくすきたる者にいはれ、心ばせなどある人の、九月ばかりに往きて、有明の月のいみじう照りておもしろきに、名殘思ひ出でられんと、言の葉を盡していへるに、今はいぬらんと遠く見送るほどに、えもいはず艶なる程なり。出づるやうに見せて立ち歸り、立蔀あいたる陰のかたに添ひ立ちて、猶ゆきやらぬさまもいひ知らせんと思ふに、「有明の月のありつつも」とうちいひて、さしのぞきたるかみの頭にも寄りこず、五寸ばかりさがりて、火ともしたるやうなる月の光、催されて驚かさるる心地しければ、やをら立ち出でにけりとこそかたりしか。



