31
こころゆくもの
よくかいたる女繪の詞をかしうつづけておほかる。物見のかへさに乘りこぼれて、男どもいと多く、牛よくやるものの車走らせたる。白く清げなる檀紙に、いとほそう書くべくはあらぬ筆して文書きたる。川船のくだりざま。齒黒のよくつきたる。重食に丁多くうちたる。うるはしき糸のねりあはせぐりしたる。物よくいふ陰陽師して、河原に出でてずその祓したる。夜寢起きて飮む水。徒然なるをりに、いとあまり睦しくはあらず、踈くもあらぬ賓客のきて、世の中の物がたり、この頃ある事の、をかしきも、にくきも、怪しきも、これにかかり、かれにかかり、公私おぼつかなからず、聞きよきほどに語りたる、いと心ゆくここちす。社寺などに詣でて物申さするに、寺には法師、社には禰宜などやうのものの、思ふほどよりも過ぎて、滯なく聞きよく申したる。
32
檳榔毛はのどやかにやりたる。急ぎたるは輕々しく見ゆ。網代は走らせたる。人の門より渡りたるを、ふと見るほどもなく過ぎて、供の人ばかり走るを、誰ならんと思ふこそをかしけれ。ゆるゆると久しく行けばいとわろし。
33
牛は額いとちひさく白みたるが、腹のした、足のしも、尾のすそ白き。
34
馬は紫の斑づきたる。蘆毛。いみじく黒きが、足肩のわたりなどに、白き處、うす紅梅の毛にて、髮尾などもいとしろき、實にゆふかみともいひつべき。
35
牛飼は大にて、髮赤白髮にて、顏の赤みてかど〳〵しげなる。



