61
よろづよりは、牛飼童のなりあしくてもたるこそあれ。他物どもは、されど後にたちてこそ行け、先につとまもられ行くもの、穢げなるは心憂し。車のしりに殊なることなき男どものつれだちたる、いと見ぐるし。ほそらかなる男隨身など見えぬべきが、黒き袴の末濃なる、狩衣は何もうちなればみたる、走る車のかたなどに、のどやかにてうち添ひたるこそ、わが物とは見えね。なほ大かた樣子あしくて、人使ふはわろかりき。破れなど時々うちしたれど、馴ればみて罪なきはさるかたなりや。つかひ人などはありて、わらはべの穢げなるこそは、あるまじく見ゆれ。家にゐたる人も、そこにある人とて、使にても、客人などの往きたるにも、をかしき童の數多見ゆるはいとをかし。
62
人の家の前をわたるに、さぶらひめきたる男、つちに居るものなどして、男子の十ばかりなるが、髮をかしげなる、引きはへても、さばきて垂るも、また五つ六つばかりなるが、髮は頸のもとにかいくくみて、つらいと赤うふくらかなる、あやしき弓、しもとだちたる物などささげたる、いとうつくし。車とどめて抱き入れまほしくこそあれ。又さて往くに、薫物の香のいみじくかかへたる、いとをかし。
63
よき家の中門あけて、檳榔毛の車の白う清げなる、はじ蘇枋の下簾のにほひいときよげにて、榻にたちたるこそめでたけれ。五位六位などの下襲のしりはさみて、ささのいと白きかたにうちおきなどして、とかくいきちがふに、また裝束し、壼やなぐひ負ひたる隨身の出で入る、いとつき〴〵し。厨女のいと清げなるがさし出でて、某殿の人やさぶらふなどいひたる、をかし。
64
瀧は
音無の瀧。布留の瀧は、法皇の御覽じにおはしけんこそめでたけれ。那智の瀧は熊野にあるがあはれなるなり。轟の瀧はいかにかしがましく怖しからん。
65
橋は
あさむつの橋。長柄の橋。あまびこの橋。濱名の橋。ひとつ橋。佐野の船橋。うたじめの橋。轟の橋。小川の橋。かけはし。勢多の橋。木曾路の橋。堀江の橋。鵲の橋。ゆきあひの橋。小野の浮橋。山菅の橋。一筋わたしたる棚橋、心せばければ名を聞きたるをかし。假寐の橋。



