枕草子: 266-270

266
神は
松尾。八幡、この國の帝にておはしましけんこそいとめでたけれ。行幸などに、なぎの花の御輿に奉るなど、いとめでたし。大原野。賀茂は更なり。稻荷。春日いとめでたく覺えさせ給ふ。佐保殿などいふ名さへをかし。平野はいたづらなる屋ありしを、「ここは何する所ぞ」と問ひしかば、「神輿宿」といひしもめでたし。嚴籬に蔦などの多くかかりて、紅葉のいろありし、秋にはあへずと、貫之が歌おもひ出でられて、つくと久しうたたれたりし。水分神いとをかし。
267
崎は
唐崎。いかが崎。三保が崎。
268
屋は
丸屋。四阿屋。
269
時奏するいみじうをかし。いみじう寒きに、夜中ばかりなどに、こほとごほめき、沓すり來て、弦うちなどして、「何家の某、時丑三つ、子四つ」など、あてはかなる聲にいひて、時の杭さす音などいみじうをかし。子九つ、丑八つなどこそ、さとびたる人はいへ、すべて何も、四つのみぞ杭はさしける。
270
日のうらとある晝つかた、いたう夜ふけて、子の時など思ひ參らするほどに、男ども召したるこそ、いみじうをかしけれ。夜中ばかりに、また御笛の聞えたる、いみじうめでたし。