301
織物は
むらさき。しろき。萌黄に柏葉織りたる。紅梅もよけれども、なほ見ざめこよなし。
302
紋は
あふひ。かたばみ。
303
夏うすもの、片つ方のゆだけ著たる人こそにくけれど、數多かさね著たれば、ひかれて著にくし。綿など厚きは、胸などもきれて、いと見ぐるし。まぜて著るべき物にはあらず。なほ昔より、さまよく著たるこそよけれ。左右のゆだけなるはよし。それもなほ女房の裝束にては、所せかンめり。男の數多かさぬるも、片つかた重くぞあらんかし 清らなる裝束の、織物、うすものなど、今は皆さこそあンめれ。今樣に又さまよき人の著給はん、いと便なきものぞかし。
304
かたちよき公達の、彈正にておはする、いと見ぐるし。宮の中將などの口惜しかりしかな。
305
やまひは
胸。物怪。脚氣。唯そこはかとなく物食はぬ。十八九ばかりの人の、髮いと麗しくて、たけばかりすそふさやかなるが、いとよく肥えて、いみじう色しろう、顏あいぎやうづき、よしと見ゆるが、齒をいみじく病みまどひて、額髮もしとどに泣きぬらし、髮の亂れかかるも知らず、面赤くて抑へ居たるこそをかしけれ。八月ばかり、白き單衣、なよらかなる袴よきほどにて、紫苑の衣の、いとあざやかなるを引きかけて、胸いみじう病めば、友だちの女房たちなどかはる〴〵來つつ、「いといとほしきわざかな、例もかくや惱み給ふ」など、事なしびに問ふ人もあり。心かけたる人は、誠にいみじと思ひ歎き、人知れぬ中などは、まして人目思ひて、寄るにも近くもえ寄らず、思ひ歎きたるこそをかしけれ。いと麗しく長き髮を引きゆひて、物つくとて起きあがりたる氣色も、いと心苦しくらうたげなり。うへにも聞し召して、御讀經の僧の聲よき給はせたれば、訪人どももあまた見來て、經聞きなどするもかくれなきに、目をくばりつつ讀み居たるこそ、罪や得らんとおぼゆれ。



