枕草子: 151-155

151
きよしと見ゆるもの
土器。新しき鋺。疊にさす薦。水を物に入るる透影。新しき細櫃。
152
きたなげなるもの
鼠の住處。翌朝手おそく洗ふ人。白きつきはな。すすばなしくありく兒。油入るる物。雀の子。暑きほどに久しくゆあみぬ。衣の萎えたるは、いづれもきたなげなる中に、練色の衣こそきたなげなれ。
153
いやしげなるもの
式部丞の爵。黒き髮のすぢふとき。布屏風の新しき。舊り黒みたるは、さるいふかひなき物にて、なか何とも見えず。新しくしたてて、櫻の花多くさかせて、胡粉、朱砂など色どりたる繪書きたる。遣戸、厨子、何も田舎物はいやしきなり。筵張の車のおそひ。檢非違使の袴。伊豫簾の筋ふとき。人の子に法師子のふとりたる。まことの出雲筵の疊。
154
むねつぶるるもの
競馬見る。元結よる。親などの心地あしうして、例ならぬけしきなる。まして世の中などさわがしきころ、萬の事おぼえず。又物いはぬ兒の泣き入りて乳をも飮まず、いみじく乳母の抱くにも止まで、久しう泣きたる。例の所などにて、殊に又いちじるからぬ人の聲聞きつけたるはことわり、人などのそのうへなどいふに、まづこそつぶるれ。いみじくにくき人の來るもいみじくこそあれ。昨夜きたる人の、今朝の文のおそき、聞く人さへつぶれる。思ふ人の文とりてさし出でたるも、またつぶる。
155
うつくしきもの
ふりに書きたる兒の顏。雀の子のねずなきするにをどりくる。又紅粉などつけて居ゑたれば、親雀の蟲など持て來てくくむるも、いとらうたし。三つばかりなる兒の、急ぎて這ひくる道に、いとちひさき塵などのありけるを、目敏に見つけて、いとをかしげなる指にとらへて、おとななどに見せたる、いとうつくし。あまにそぎたる兒の目に、髮のおほひたるを掻きは遣らで、うち傾きて物など見る、いとうつくし。たすきがけにゆひたる腰のかみの、白うをかしげなるも、見るにうつくし。おほきにはあらぬ殿上わらはの、さうぞきたてられて歩くもうつくし。をかしげなる兒の、あからさまに抱きてうつくしむ程に、かいつきて寢入りたるもらうたし。雛の調度。蓮のうき葉のいとちひさきを、池よりとりあげて見る。葵のちひさきもいとうつくし。何もちひさき物はいとうつくし。いみじう肥えたる兒の二つばかりなるが、白ううつくしきが、二藍のうすものなど、衣ながくてたすきあげたるが、這ひ出でくるもいとうつくし。八つ九つ十ばかりなるをのこの、聲をさなげにて文よみたる、いとうつくし。鷄の雛の、足だかに、白うをかしげに、衣みじかなるさまして、ひよとかしがましく鳴きて、人の後に立ちてありくも、また親のもとにつれだちありく、見るもうつくし。かりの子。舎利の壺。瞿麥の花。