枕草子: 206-210

206
五日の菖蒲の、秋冬過ぐるまであるが、いみじう白み枯れて怪しきを、引き折りあげたるに、その折の香殘りて、かがへたるもいみじうをかし。
207
よくたきしめたる薫物の、昨日、一昨日、今日などはうち忘れたるに、衣を引きかづきたる中に、煙の殘りたるは、今のよりもめでたし。
208
月のいとあかきに川を渡れば、牛の歩むままに、水晶などのわれたるやうに、水のちりたるこそをかしけれ。
209
おほきにてよきもの
法師。くだもの。家。餌嚢。硯の墨。男の目。あまりほそきは女めきたり、又鋺のやうならんはおそろし。火桶。酸漿。松の木。山吹のはなびら。馬も牛も、よきは大にこそあンめれ。
210
みじかくてありぬべきもの
とみの物ぬふ糸。燈臺。下種女の髮、うるはしく短くてありぬべし。人の女の聲。