211
人の家につき〴〵しきもの
厨。侍の曹司。箒のあたらしき。懸盤。童女。はしたもの。衝立障子。三尺の几帳。裝束よくしたる餌嚢。からかさ。かきいた。棚厨子。ひさげ。銚子。中盤。圓座。ひぢをりたる廊。竹王繪かきたる火桶。
212
ものへ行く道に、清げなる男の、竪文のほそやかなる持ちて急ぎ行くこそ、何地ならんとおぼゆれ。又清げなる童女などの、袙いと鮮かにはあらず、萎えばみたる、屐子のつややかなるが、革に土多くついたるをはきて、白き紙に包みたる物、もしは箱の蓋に、草紙どもなど入れて持て行くこそ、いみじう、呼び寄せて見まほしけれ。門ぢかなる所をわたるを、呼び入るるに、愛敬なく答もせで往く者は、つかふらん人こそ推しはからるれ。
213
行幸はめでたきもの、上達部、公だち車などのなきぞ少しさう〴〵しき。
214
よろづの事よりも、わびしげなる車に、裝束わろくて物見る人、いともどかし。説經などはいとよし。罪うしなふかたの事なれば。それだに猶あながちなるさまにて、見苦しかるべきを、まして祭などは、見でありぬべし。下簾もなくて、白きひとへうち垂れなどしてあンめりかし。唯その日の料にとて、車も下簾もしたてて、いと口をしうはあらじと出でたるだに、まさる車など見つけては、何しになど覺ゆるものを、ましていかばかりなる心地にて、さて見るらん。おりのぼりありく公達の車の、推し分けて近う立つ時などこそ、心ときめきはすれ。よき所に立てんといそがせば、疾く出でて待つほどいと久しきに、居張り立ちあがりなど、あつく苦しく、まち困ずる程に、齋院の垣下に參りたる殿上人、所の衆、辨、少納言など、七つ八つ引きつづけて、院のかたより走らせてくるこそ、事なりにけりと驚かれて、嬉しけれ。殿上人の物言ひおこせ、所々の御前どもに水飯くはすとて、棧敷のもとに馬ひき寄するに、おぼえある人の子どもなどは、雜色などおりて、馬の口などしてをかし。さらぬものの、見もいれられぬなどぞ、いとほしげなる。御輿の渡らせ給へば、簾もあるかぎり取りおろし、過ぎさせ給ひぬるに、まどひあぐるもをかし。その前に立てる車は、いみじう制するに、などて立つまじきぞと、強ひて立つれば、いひわづらひて、消息などするこそをかしけれ。所もなく立ち重りたるに、よき所の御車、人給ひきつづきて多くくるを、いづくに立たんと見る程に、御前ども唯おりに下りて、立てる車どもを唯のけに退けさせて、人給つづきて立てるこそ、いとめでたけれ。逐ひのけられたるえせ車ども、牛かけて、所あるかたにゆるがしもて行くなど、いとわびしげなり。きら〳〵しきなどをば、えさしも推しひしがずかし。いと清げなれど、又ひなび怪しく、げすも絶えず呼びよせ、ちご出しすゑなどするもあるぞかし。
215
廊に便なき人なん、曉に笠ささせて出でけるといひ出でたるを、よく聞けば我がうへなりけり。地下などいひても、めやすく、人に許されぬばかりの人にもあらざンめるを、怪しの事やと思ふほどに、うへより御文もて來て、「返事只今」と仰せられたり。何事にかと思ひて見れば、大笠の繪をかきて、人は見えず、唯手のかぎり笠をとらへさせて、下に
三笠山やまの端あけしあしたより
とかかせ給へり。猶はかなき事にても、めでたくのみ覺えさせ給ふに、恥しく心づきなき事は、いかで御覽ぜられじと思ふに、さるそらごとなどの出でくるこそ苦しけれと、をかしうて、こと紙に、雨をいみじう降らせて、下に、
雨ならぬ名のふりにけるかな
さてや濡れぎぬには侍らんと啓したれば、右近内侍などにかたらせ給ひて、笑はせ給ひけり。



